第3回 竹井達男 Total Dedication〜シングルフィン・ロングボードを追い求め

第3回 竹井達男 Total Dedication〜シングルフィン・ロングボードを追い求め

90年代後半から南カリフォルニアで起こったクラシック・ロングボードの復興。日本ではロングボードがいまよりもマイナーで、アンチメインストリームだった時代に自分と竹井達男氏は、カリフォルニア・サンディエゴで出会い、ディープなカルチャーを体感してきた同士だ。

トレンド云々ではなく、これまでぶれずにシングルフィン・ログに向き合ってきたオトコは、西海岸でVAN LIFEという名の車上生活を経て、日米で集大成となる写真集AUTHENTIC WAVE を発表した。それからコロナ禍を経て5年。逆輸入という形で彼は再び日本に拠点を置き、新たな活動を始めている。彼がいま考えていることとは何なのか、そしてどこで何をやっているのかを知りたく、イマドキのZOOMという形で久々にコンタクトを取った。

 

(Aomori, Japan.  Photo: Kaori Sasaki)

 

いま現在はどこにいて何をやっているの?

青森にいて、写真と自分自身に向き合ってます!

 

生活のベースはどこに置いているの?

昔は大阪と(サンディエゴの)エンシーニータスという感じで半々。今年の2月にカリフォルニアの車は売っ払ってきて、ほぼ1年フルで日本にいれる状況を今回作って帰ってきたんで、新しい環境を整えてた感じです。

写真や自分のサーフィンに関しても向き合える環境っていうのが、いま青森にあるので、 2ヶ月の滞在を年内に2回繰り返そうかなと思ってて。今年は5、6月に滞在、7、8月は一回大阪に帰って、また9、10月に青森に戻って来ようかなと。そうなると秋は本気の写真を撮る時期やね。いまは写真というよりか、どっちかというとサーフィンに向き合ってるけど。

 

カリフォルニアから日本に戻ってきて、選んだ場所がなんでまた青森なの? めちゃくちゃ寒いでしょ?

そう、確かに寒いんですよ。思っていたよりも水は冷たいし、風も冷たい。冬は想像を絶する寒さ(笑)。でもなんで青森かっていうと、一人になれるから。友達とか知り合いもいるんやけど、海に行ってわざわざ人に会わないですむという。1人でサーフィンできて、日本だとリーシュ問題色々あると思うけど、そこそこ気を付けてたら、リーシュしてないことをうるさく言われない。ロングボードの様々な場所はあると思うけど、僕がいる青森県のとある場所は、ロングボードに適した波がそこそこ立つ。そういうところをわざわざ見つけてきて、このコロナの中で行ったり来たりしてきた中で、あ、ここやなと。カリフォルニアにちょっと近い波だと思った。

 

どちらかというとサーフィンに向き合うため? 写真に向き合うと言っていたけど、被写体を求めて行き着いた場所ではなくて?

写真もそうだけど、ここに住んでる人たちのサーフィンのレベルが年々上がってきてる。初めて見た時にもう気づいてたけど、その次またその次と、来る度にみんなシングルフィンのロングボードがだんだんと上手くなってきてる。そこそこ波がいい時、もしくは撮影向きの状況の時は、ローカルセッションになってピリッとした写真が撮れる。通ってから2年間 、3年目ぐらいからカメラ持ってきてやっているけど、それなりにカリフォルニアにはない、ちょっと違ったロングボードの写真が撮れて、それはそれで充実してると思う。

 

でもいまの季節は良いとしても冬の時期は厳しいでしょ。

真冬はやっぱり無理やね。10月の末が僕の限界です。

 

日本だから、流石に車で生活しているわけじゃないでしょ?

最初はホテル暮らしをしてたけど、なかなか料理したくてもできないし。通ってるうちに3年目ぐらいから知り合いができて、家の一室を借りれるようになって、今は1ヶ月単位で部屋借りてる。

 

プロサーファーを連れて来て、撮影をするわけでもないんでしょ?

ほぼそうやけど、中村清太郎君がたまに来る。それも俺の中の楽しみかな。やっぱり、おーっていうサーフィンをするからさ。

 

他には?

そんなに有名ではないけども、千葉のローカルサーファーや 一番遠くて湘南ぐらいからかな。ちょこちょこ来るけど。アンダーグラウンドの人たちもここのサーフシーンに気づき始めてるかなと思うけど。トロイ・エルモアや外タレ、先週はアンドリュー・キッドマンが来ていたよ。

 

いま日本各地で行っている勉強会について教えて。

以前、アメリカの子供を対象にして家に来てもらって、ビデオを見せてた。ランス・カーソンだけを見たいって言う子どもがいると、いいよって言ってダビングを重ねたランス・カーソン集みたいなムービーを上映していた。土曜日に子供が来て、ヒュー!とか言ってたんやけど、そんなかでもセンスのある子は次にデビッド・ヌイーバを見たいとかそういう風になってた。日本の上映会はその延長っていうか、やっぱり以前はシックスティーズを抑えてサーフィンしようというのがあったけど、いまはもうそんなの関係なしになってるから。

特に僕らはさ、90年代のカリフォルニアをやっぱりそれなりに通り越してきてるけど、やっぱそこを抑えとくといいかなっていうので、大人向けの勉強会を始めたっていうのがきっかけ。

で90年代、要するにシックスティーズから30年後に僕らアメリカにおって、あんだけ盛り上がってたんだけど。いろいろすったもんだがあって、いまが90年代から更に30年後。だからこれからまた盛り上がってくるだろうな、誰かがまたムーブメント起こしてくるんじゃないかなというのが、俺の経験。それがカリフォルニアなのか、ヨーロッパなのか、はたまた女性のグループが言いだすんかもしれんけど。しっかりロングボードしようよ、シングルフィンやろうよ、早めに準備してこうよというのが、今年からやり出したことやね。

 

ユーチューブやネット、SNS全盛の時代にあえてアナログなやり方にこだわるのは?

まあネットでバッとやれば広まるんやけど、やっぱり好きな人に来てもらいたいし、そこでやっぱりグイグイ好きな人と関連性を持ちながら、各地でやっていくというのも自分のペースにあっているかなと。やっぱり驚くこともある。あ、こんな所にこんなサーファーがおるんやという。

世の中がコロナになって、動けなくなった時に感じる不便さとかもあるけど、その反動で、いま動きながら楽しみながら、ちょっとずつやっていくみたいなことかな。

いまの勉強会はシックスティーズを中心に紹介してるんだけど、一周したら今度は90年代の勉強もしなあかんから、それはすでにネタとしてはちゃんと用意できてる。ジョエル・チューダー、タイラー・ハジーキアン、マット・ハワードとブリタニー・クイン、あの辺は押さえとかんと。JJとかの同世代のロングボーダー達も、マットとブリタニーのサーフィンを見て育ったって言ってた。

 

 (Robin kegel  Photo: Tatsuo Takei) 

 

マット&ブリタニーと同じようなアウトローの、ロビー・キーガルとも何か一緒にやっているの?

ロビーはこれからつかまえて、それなりにしっかり映像、写真を撮りたいかな。いまは身体が一回り大きくなったって聞いているけど、モロッコの映像とか観た? やっぱり格好良いサーフィンするよね。

フランスでもむちゃくちゃやって、いまはカリフォルニアのオーハイにいるらしく、彼の次のプロジェクトが楽しみ。日本にも早く来日して欲しい(笑)。

 

中村清太郎ともつきあいは長いよね。それこそ、90年代後半の同じ時期に彼はカーディフにいたし。

うん。当時はパイプスだったり、ケビン・コネリーに連れられてカーディフリーフに来てたよね。その後、日本でたまたま会うことは会っても、お互いに急いでたりして一言二言でまた、みたいな感じだったけど、数年前にたまたま青森で再会した。一年に一回はこっちに来てくれるから、その時はしっかり自分も時間を取って写真を撮るだけ撮ることにしてる。なんかお互い持っているものや、見てるものが少し似てる気がするんだよね。

今年に関しては決めておきたいなというのがあって、台風スウェルか秋口にもう一回セッションしたいねと話しをしてる。彼はもっと長いスパンで撮っていきたい被写体の一人。僕の中では、ほんまわずかな輝いている人やなと思ってる。

あと去年ぐらいから水中の撮影もやってて、清太郎君も気持ちを上げてくれる。おっさんになったから結構きついんだけどね、ウォーターハウジングも重いから。ふらふらになりながらやって、毎回勉強してるよ(笑)。

 

清太郎が出ているトーマス・キャンベルのThe Seedlingは、日本人の若い世代にシングルフィン・ロングボードの世界を紹介したエポックメイキング的な作品だったのは間違いないんだけど、当時VHSが発売される前、サンディエゴ・エンシニータスのラパロマシアターのプレミアにいたのは、たぶん自分と達男ちゃん、清太郎だけで、その周りの友達しか日本人はいなかった記憶があるんだよね。 

そうだった。あれはいまでも覚えてる。あとアンディ・デイビスがThe SeedlingのVHSやTシャツを劇場のロビーで売ってたよね。

 

トーマスはジミー・ガンボアとかとLAでつるんで遊んでて、当時はスケートボーダーのフォトグラファーが次にサーフィンのムービーを撮っているんだっていう印象しかなくてさ。

トーマスはSURFERマガジンに白黒の写真が載ってて、そのあとカーディフで16mmのムービーを撮ってて、自己紹介した。そしたら、お前、センチュリーのレンズで写真撮ってるだろ、って言われた。それで、写真の現像どうしてるんだと聞かれて、学校でやってるけど、もうすぐ卒業だからどうしようかと思ってるって言ったら、一緒に写真の暗室をシェアしないかと誘われた。それからトーマスと彼女のミッシェル(現・ミッシェル・キッドマン)と一緒に暗室をエンシニータスでシェアしてた。シードリングの後にオーストラリアに4ヶ月行って、帰ってきたら2人はもう別れちゃっててすごい険悪だったよね(笑)。

そんな 90年代があったけど、清太郎君ともそれから全くブレてないって言うか、同じことしかやってないねっていう話をたまにするんだけど。

 

そこまで長い間、クラシックなシングルフィンのサーフィンにこだわる理由って何なんだろう?

やっぱり深いし面白いし、これ以外ないかな、っていうとこかな。いろんなラーメン食べてきても、最終的に行き着くところが同じお店だったみたいなのと一緒で。

実はあれやりたい、これやりたいっていうのはそんなになくて、このひとつのことに関してくるくるやってるんやけど、やっぱ深いなっていう感じで。

清太郎君に久しぶりに会って思ったのは、『90年代の時より更に磨きがかかっとんなぁ、その磨き方が半端ないやん!』と。

俺も写真やって長いけど、更に深みを出していきたいなっていうので、その今回写真にあらためて向き合ってるひとつのきっかけを、彼がまた作ってくれたということでもある。

 

 (Cardiff by the sea  Photo: Julian Martin)

 

写真集AUTHENTIC WAVEにはバンライフのことも書いてあったけど、実際ビーチライフをやってみてどうだった。なかなか普通の人はできないことだよね。どれくらいの期間やっていたの?

車は2台変えて、延べ10年以上はやっていたと思う。それこそVAN LIFEと言われる前から自分はやっていて、色々な人々のビーチライフを見て、リアルな姿を見てきた。ビーチライフをやってきて、いい時もあるし悪い時もあったけど、悪い時の方は時間が経つと忘れるんだよね(笑)。そんな中でも最高だなと思えるときが多々あってさ。

寒かったり暑かったり、温度調整とかもあまりできない環境の中、希望と仕事、この2つがないと生きられないんだけど、そのために車での生活をやってきた。家を買ったりせずに、これが一番無駄がないかなと。家族も持てないけど、自分の写真集を出すという目標があったからやってこれた。

 

普通に生活していれば、どんどん物は増えていく一方だけど、車での生活をする上で、捨てなければいけないもの、あきらめなきゃいけないものもあったでしょ。

そうだね。本音では奥さんや家族も欲しいけど、ここまでって線を決めておかないと相手にも失礼だし、自分もそれに頼ってしまうこともあるから。

物もそうだよね。気にしないとどんどん増えていく。歳を重ねるにつれ、あれ欲しい、これ欲しいというのも減ってきた。何も持っていなくても、いまは自分の時間が持てる、ひとりの時間に向き合えるというのがこれまでやってきた中での集大成かと。まあ、湯時(とうじ)のような感じかな。今日もサーフィンに行った後、温泉に直行。身体を整えて早めに寝る。まるでおじいちゃんがやってることみたいだけどね(笑)。

とはいってもアメリカでは、車生活や撮影でどんなに疲れても、スーパー銭湯もないし、ゆっくりお風呂に浸かることもできなかっただろうから、辛かったのでは?

あれはキツかったね! フィットネスのシャワーを利用していたけど、ボイラーが古いから、温まるのに時間がかかるし、シャワーもトボトボ。特に冬の時期は辛かった。そういうことも含めて車生活では色々と経験したよ。

  

(CA VAN LIFE  Photo: Julian Roubinet)

 

これまで長い間、カリフォルニアのクラシック・ロングボードのシーンを見てきて、最近のトレンドはどう感じる?

正直言って、ちょっとチャラいなって思ってます(笑)。というのも、ジョエルがダクトテープのコンテストをやってから、若い子達や輩がロングボードをやってみたいというのも増えたんだけど、実際それだけがロングボードじゃないからね。もっとおっさんのサーフィンも見て欲しいし、シックスティーズって何、デビッド・ヌイーバと言われてもピンとこないとだろうから。国籍を問わずロングボードやっている世代には、もうちょっと1960年代や1990年代のことを勉強して欲しいと思います。

 

カリフォルニアに留学した当初の90年代前半と現在でかれこれ30年になるけど、ビーチに集まる人達、ノリはどう変わったと思う?

だいぶ変わってる。今はビーチも、アマゾンだグーグルだ何やとテック系の人たちがたくさん増えて、彼らはテスラで海に来るからね。あれすごく加速するじゃん、駐車場で人を轢くような速度で帰って行くからさ、もう驚くよね。フィンを逆さまに付けてたり、変わったなと思う次第であります(笑)。

 

これから被写体として撮影したいサーファーは?

さっきも出たけど、カリフォルニアではロビー・キーガルや、若手のザック・フローレストとか。日本だと中村清太郎君や瀬筒雄太君なんかはチャンスがあったら撮りたい。

 

自身はどんなサーフボードが好き? お気に入りのブレイクは?

ちょっと重いロングボードが好きで、フィル・エドワーズとかマイク・ヒンソン・モデルみたいなノーズが尖っているやつ。

好きなブレイクはカーディフとかサンノーとか、ロングボード向きの波。日本だとそういうブレイクはなかなかないけど、鎌倉の七里ヶ浜、静岡の鹿島、千葉の御宿、茨城の平井、愛知の伊良湖、青森の三沢ではカリフォルニアかと思うくらいクラシックな波に出会いました。

 

(Upnorth  Photo: Masato Sato)

 

いまサーフボードは何本所有しているの?

ロングボード1本、シングルフィンショート1本! 究極の2本。

 

ボードもライフスタイルもミニマルで徹底しているんだね。

そう、迷いたくないからね。各地で売ったりして、あとはカリフォルニアに1本置いてあるだけ。ロングボードは重めの9'4"で、DavenportのTatsuo Special。4、5年改良を重ねて、いまは日本用のモデルに乗ってる。短いのはノア・シマブクロに頼んで作ってもらったSurfboards by Donald Takayamaの70'sガン。7'6"だけど、幅、厚みが結構あって、こないだ青森でサーフィンしたときにドルフィンで手首を捻挫した(笑)。

 

影響を受けた映像フィルムについて教えて下さい。読者が観るならどの作品、どの辺がいいですか。

『The Endless Summer (1966) 』、『The Hot Generation (1967)』、『Evolution (1969)』、『The Five Summer Stories (1972) 』、『Big Wednesday (1978) 』、『adrift (1996) 』、『Fine Flow (1999) 』、『 The Seedling (1999) 』、『Zinfandelz (2013) 』、『Forbidden Trim (2017) 』。

 

映画の完成はいつになりそうですか?

ハハハ(笑)、16ミリのことだよね。しばしお待ち下さい! 2000年から撮影していて、25分くらいのフッテージはあるんだけど、それをドキュメンタリーぽくではなくて、違うタッチで残りを撮って、完成できたらいいかな。映画の中に映画を入れていく手法、アメリカのどこかで16ミリのフィルム缶が見つかって、それを日本の竹井って人が撮ってたみたいな。何が何でもサーフムービーじゃなくても良いと思ってる。

16ミリはやはりお金がかかります。1本の長さは2分半で、25本はあるけど、良いときにしか撮影できない。始めた当初は試し撮りで映像もガクガクしてたけど、ジョエルのシングルフィン・ショートボードとか面白いのもある。その後5年くらいブランクがあって撮影を再開したら、ジョエルのサーフスタイルが変わってたりして発見もあるし、始めた時より数段に上手く撮影できていることに気づいた。

 

上映会はどこで、どんなスタイルでやる予定?

いまのキャラバン風で、勉強会のようなスタイルがいいかな。ある程度のところまでは自分でナレーションしながら見せたい。日本各地に呼ばれればどこでも行くし、映写機で様々な地域を回れたらいいかなと思ってます。オンラインでの上映っていうのは当面考えてなくて、その後はアメリカかな。ヨーロッパは一度も行けてないんで、写真集と映画を是非持って行きたい。その時は日本のフッテージも入れていきたいね。

今日はありがとう。では次の作品も楽しみにしてるよ!

 

(Authentic Wave | Surf Photography by Tatsuo Takei  2018)

https://www.tatsuotakei.com

 

 

インタビュー/川添澪●神奈川県・鎌倉市出身・在住。カリフォルニア州立大学サンディエゴ校・サーフィン部卒。日本の1stジェネレーションのサーファーを父に持ち、幼い頃より海外のカルチャーに邂逅。90年初頭から10年間に渡り、カリフォルニア・サンディエゴ〜マリブに住み、ロングボード・リバイバルを体感。帰国後はON THE BOARD編集長に就任し、GLIDE他の雑誌媒体を手がける。これまで独自のネットワークでリアルなカリフォルニアのログ、オルタナティブサーフシーンを日本に紹介。

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